スーツとワイシャツネクタイ捨てた。
昔私はこう思った。
それは夏の暑い日。湿気MAXの日。風も無くモヤっとしている日。
仕事終わりの私は、疲れた体で電車に乗っていた。夜の池袋。電車は混んでいる。窓は湿気と、乗客の熱気で白く曇っている。そして、私はスーツを着ていた。そう、スーツだ。あの、スーツだ。そのとき、急に自分への質問が止まらなくなった。なぜ?どうして?
オレはなんでこの過酷な環境でスーツなんかを着ているんだ?
おかしい……。狂ってる……。全てが間違っている。こんなのタンクトップでも暑いじゃないか。ふんどし一丁だって暑い。裸でも発狂しそうだ。密閉された空間に押し込められ、人々の熱気が湯気のように立ち上がり、車内には重い匂いと不機嫌な乗客。肌がベトついてしかたがない。
なのに、それなのに……。
お、オレは……、す、スーツを着ている。
スーツを着ているんじゃああああああ!!
その時誓ったんだ。
オレはもう、二度と、スーツなんか着ないと。
スーツ、ワイシャツ、ネクタイ、喪服、コートにマフラー。全て捨てて約一年が経つ。ワイシャツは最後まで残ったが結局着ることはなかった。そして、困ったことは一度もないし、これからも絶対にないだろう。なぜなら、私は、自由だからだ。
そして私はTシャツマンになったのだ。今は綿100%のこれを着ている。